~会話型AIは孤独を減らせるのか~
私は日々、多くの高齢者の方を診察しています。
診察室で患者さんとお話をしていると、「病気そのもの」よりも、「誰とも話していないこと」が心配になる場面が少なくありません。
血圧も安定している。
糖尿病もコントロールできている。
それでも元気がなくなっていく方がいます。
その理由の一つが、「会話の減少」です。
人は話さなくなると元気を失いやすい
高齢になると、仕事を引退します。
子どもも独立します。
配偶者を亡くされる方もいます。
すると、それまで当たり前にあった会話が急に減ってしまいます。
「今日は誰とも話していないな」
そんな日が何日も続く方も珍しくありません。
実際に診察をしていると、
「先生、今日は誰かと話したくて来たんだよ」
と笑いながらおっしゃる患者さんもいます。
もちろん病院はおしゃべりをする場所ではありません。
ですが、その言葉の裏には、人とのつながりを求める気持ちが見えます。
会話は脳への刺激になる
人と話すことは、単なる暇つぶしではありません。
相手の話を聞く。
自分の考えをまとめる。
言葉を選ぶ。
感情を表現する。
こうした作業は脳をたくさん使います。
散歩が足の運動になるように、会話は脳の運動とも言えます。
認知症予防は一つの方法だけで決まるものではありませんが、人との交流が多い方は、心身ともに元気な傾向があります。
地域のサロン活動や趣味の集まりに参加している方が、生き生きして見えるのは決して偶然ではありません。
孤独は健康にも影響する
私は訪問診療も経験してきました。
その中で感じるのは、孤独は決して「気持ちの問題だけ」ではないということです。
誰とも話さなくなると、
・外出が減る
・食事がおろそかになる
・生活リズムが乱れる
・体調変化に気づきにくくなる
といったことが起こりやすくなります。
結果として、身体の健康にも影響が出てきます。
高齢者医療では、病気だけを見るのではなく、その人の生活全体を見ることが大切だと言われます。
会話もその一部です。
では、会話型AIは役に立つのか
最近は会話ができるAIが急速に普及しています。
私自身は、この技術には大きな可能性があると考えています。
特に独居高齢者の方にとっては、
「今話せる相手がいる」
ということ自体に意味があります。
夜中でも話せる。
同じ話を何度繰り返しても嫌な顔をしない。
天気の話も昔話も付き合ってくれる。
これは人間にはなかなかできないことです。
実際に私は、
「毎日AIと話すようになってから気持ちが楽になった」
という方も見てきました。
ただし、人間の代わりにはならない
一方で、AIがすべてを解決するとも思っていません。
人間同士の会話には、
表情があります。
空気感があります。
相手を気遣う気持ちがあります。
長年の思い出があります。
家族や友人との関係性そのものが、心の支えになっています。
AIはそこを完全に置き換えることはできません。
私はよく、
「補聴器が耳の代わりにならないように、AIも人間関係の代わりにはならない」
と考えています。
しかし、人とのつながりを補う道具にはなれると思います。
これからの高齢社会に必要なもの
これから一人暮らしの高齢者はさらに増えていきます。
家族が遠方に住んでいるケースも珍しくありません。
そうした中で、
家族との会話。
地域とのつながり。
友人との交流。
そしてAIとの会話。
そのすべてを組み合わせていくことが大切になるのではないでしょうか。
私は医師として、「人と話すこと」は薬と同じくらい大切な健康習慣の一つだと感じています。
もし今日、誰とも話していないなら、家族でも友人でも構いません。
一本電話をしてみてください。
そして、それが難しい日にはAIに話しかけてみるのも一つの方法です。
大切なのは、声を出し、自分の気持ちを言葉にすることです。
会話は心を整えます。
そして、人は誰かとつながっていると感じられるとき、少し元気になれるのだと思います。
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